音声障害-キーワード
声の機能
声は話しことばに用いられ言語情報を伝えるだけでなく、発話者の性、年齢、体調、気分など非言語情報も伝えるものである。
声の4要素
声はその高さ、大きさ、長さ、音色という4つの特性で特徴づけられている。
こういった声の諸要素は個人の身体的特徴に加え、声帯の調節、呼吸の支持、声道の変化により決まる。
安静呼吸換気量
安静呼吸は自律的でリズム、1回換気量はほぼ一定で、呼気は肺・胸郭の弾性である。
呼気は主に横隔膜の収縮によって行われ、また外肋間筋も使用される。
呼気は肺・胸郭の弾性のみで呼気筋は使われない。
安静呼吸は1秒間に12回程度である。
換気量とは安静時呼吸の呼吸で吐かれ、また吸われる空気の量を指す。
肺活量
肺活量は普通の呼吸(1回の呼吸気量)から思い切り息を吸い込み(予備吸気量)、ついで吐き出せる限りの息(予備呼気量)を吐き出した時の全呼吸気量をいう。
身長・性別・年齢・姿勢などが関係する。
正常成人の実測肺活量は男性が3200~4500ml、女性が2300~3200mlである。
残気
最大強制呼気の後に肺内に残っている空気。
呼気保持
持続発声、連続発話では、肺・胸郭系の弾性による肺内圧が肺気量の変化によって変動するのを打ち消して必要な呼気圧を保つ。
そのため、吸気筋および呼気筋により肺内圧の調整を行うことを指す。
持続発声に要する呼気流率
正常発声で使用する1秒当たりの呼気量は100~200ml
発声の効率
呼気により声帯を振動させ音声に変換する効率。
最長発声持続時間(MPT)
最大吸気後に/a/をできるだけ長く持続させる。3回測定し最大値をMPTとする。
持続時間が短縮している場合、多くは声門閉鎖不全によるが、その他、肺活量の減少や呼吸、喉頭調節の異常が関係する。男性で15秒、女性で10秒未満は異常値。
喉頭の機能
①呼気調節 ②喉頭調節 ③構音
喉頭を構成する軟骨
甲状軟骨、輪状軟骨、披裂軟骨、喉頭蓋軟骨の4つから構成されている。
声門閉鎖筋
甲状披裂筋、披裂筋、外側輪状披裂筋
声門開大筋
後輪状披裂筋
声を高くする筋
輪状甲状筋
上気道の機能3つ
鼻から喉頭までを上気道といい、この通路は空気を浄化、加温、加湿する機能がある。
話声位(SFF)
男性:100~130Hz
女性:200~240Hz
声域
低音から構音までの生理的に出せる音域。
声区
声域は声区でわけられ、高くなるに従いフライ、パルス。表声・地声、裏声、ホイッスル。
フライとホイッスルは声域に含まれない。
硬起声
声門が強く閉鎖してから呼気の流出がおこるものをいう。
軟起声
正常起声ともよばれる。
声の誤用
大声や力んだ発声は器質的病変を招きやすい。
早口や長話は喉頭全体に力を入れて声を絞り出すような発声を誘発する。
不適切な高さの発声も声帯の緊張が過多になり、声帯に必要以上の負荷をかける。
Source-fillter理論
音源フィルタ理論ともいう。音源が声道フィルタというシステムに入力されると、声道において共鳴特性が反映される。その結果、システムから出力される応答が音声であると考えることができる。
フーリエの法則
すべての規則性のある波は周波数の異なる正弦波の合成としてとらえることができるとした数学上の理論。
ベルヌーイ効果
呼気が瞬間的に流出し声門部が陰圧になり左右の声帯が吸い寄せられること。
音声障害の種類
①器質性音声障害、②神経学的音声障害、③機能性音声障害の3つに分類。
器質性音声障害はポリープ、結節、嚢胞、腫瘍などの隆起性のもの、声帯炎症やポリープ様声帯のように声帯全体の容量が増加するもの、萎縮や溝などのように容量現象が生じるもの。
神経学的音声障害は喉頭麻痺、痙攣、振戦などのような神経学的な異常に起因するもの。
機能性音声障害は声帯に著変を認めないもので、機能性発声障害(心因性を含む)、変声障害、痙攣性発声障害、ホルモン音声障害、老人性喉頭。
声帯結節
成人女性、学童男児に多く、音声の酷使によっておこる。生体間の過剰な衝突によって前方1/3におこる。
声の安静や副腎皮質ステロイド投薬、手術によって治療する。
声帯ポリープ
性差はなく、声帯の血管が破れ、粘膜下に血腫が生じる。主に片側性で声帯の前1/3に出現。治療は手術。
ポリープ様声帯(ラインケ浮腫)
中年女性のヘビースモーカーに多く、両側性体が著しく腫脹する。手術によって治療。
喉頭肉芽腫
声帯突起部の衝突により炎症性の腫瘤が生じる。主に片側性。プロトポンプ阻害薬、副腎皮質ステロイドなど投与。
手術で切除しても再発が多い。
喉頭乳頭腫
パピローマウイルスの感染。口頭内に多発性に広がる。手術で治療する。
声帯嚢胞
性差はなく、片側声帯の前方に嚢胞が形成される。手術による摘出が第一選択。
喉頭癌
喉頭から発生した上皮性悪性腫瘍で喫煙により発症する。男性に好発する。音声所見では初期から重度の粗慥性嗄声が認められ、声帯固定をきたすと気息性嗄声になり、さらに増大すると、呼吸困難、呼気性喘鳴をきたす。治療は声帯固定を伴わない小さな腫瘍には放射線治療あるいはCO2レーザーによる切除を行う。大きな腫瘍は喉頭全摘術が行われる。
Brinkman指数
喫煙量と喫煙年数を掛けた数値.400超えるとがんが発生する可能性が高くなる。
声帯溝症
声帯縁近くの粘膜前後方に溝が形成される。男性に多い。生体内にコラーゲン注入や、手術が利用方法。
喉頭結核
喉頭に結核性の病変がおこったもの。
喉頭粘膜に生じた小さな損傷部位から、たんに含まれる結核菌が感染することが多い。
声帯に病変を生じた場合は、片側性声帯炎のかたちをとることが多い。
喉頭炎
喉頭の粘膜に起こる炎症。急性・慢性がある。声帯粘膜に発赤、充血、浮腫が生ずる。視診が不可。慢性は声の安静と薬物治療を行う。
喉頭麻痺
問診では、声が続かない。声を出すのに努力が必要という訴えある。
聴覚心理検査では気息性嗄声が認められる。発声時に声門閉鎖不全が認められる。
反回神経麻痺
片側声帯の固定および声帯の萎縮、弓状弛緩を認める。嚥下障害を伴う事もある。
痙攣性発声障害
20~50代女性に多く、会話時に声帯周囲の筋肉が不随意的に収縮し、声帯の過内転がおこる。原因は中枢にあるが、詳細は不明。完治は困難である。
心因性発声
女性に多く、精神的なストレスが原因となって失声が生じる。音声治療を行う。
変声障害
男性に置いて思春期に喉頭の軟骨が拡大したにもかかわらず、裏声を用いて思春期以前の声の高さで会話を行っている状態。音声治療を行う。カイザーグッツマン。
音声の検査・評価
①声帯の状態を知るための検査
内視鏡、声帯振動(ストロボスコープ)、空気力学的検査、筋電図、画像診断
②患者の発生した音声を対象とする
問診、声の聴覚的評価(GRBAS)、声の高さ、強さ、音響分析、
③声の主観的評価(VHI)
音声治療の種類
間接訓練→声の衛生指導→直接訓練→症状対処的訓練
①声帯弛緩
軟起声、あくび・溜息法
②声帯緊張
硬起声、プッシングエクササイズ
③声の高さの調節
カイザーグッツマン
包括的訓練
呼吸、発声、共鳴をひっくるめて訓練、アクセント法など
声の衛生指導
喉頭声帯の構造および働きを説明。音声障害になりやすい項目を説明。
回避すべき行動
長時間話す、歌を歌う、体調不良のときに声を使う、大声で話す、早口で話す、どなり声を出す、騒がしい所で話す、運動しながら声を出す、興奮して話す、硬起声での発声、ささやき声で話す、声色を変えた声を出す、無理な音域で歌う、咳払いをする。
注意すべき事項
喫煙、飲酒、乾燥、ほこり、カラオケ、風邪、飲食物チョコレート、逆流性食道炎、薬剤、趣味など。
あくび・ため息法
硬起声や持続発声をなくす目的で用いられる。あくびすることにより声帯は適度に弛緩する。
あくび後にため息をつくと、声帯は弛緩した状態でしかも声門は呼気を通すために少し開いた状態で発声することができる。
咀嚼法(チューイング法)
自然な咀嚼運動をしながら声を出すときには不必要な喉頭や声道の緊張を軽減することができる。咀嚼運動に注意を集中することで、結果的に意識的な喉頭の緊張を軽減できると考えられる。
軟起声発声
ため息をつくと呼気が声門の隙間から抜ける為、気息性の声になる。語頭や文頭に/h/をつけて発生する事で声門は開いた状態で発生することができる。声帯接触を緩やかにすることが目的である。
ハミング
鼻梁部に軽く声を響かせ、鼻歌を歌うような発声をする。
吸気発声
仮声帯発声や失声症の方に行う。本来の声帯振動による発声を取り戻すのに効果的な方法。肩を上げながら吸気してみせ、それに合わせて高めのピッチのハミングをする。
次に肩を下げながら呼気でも同じことを行う。
プッシング法
声門閉鎖不全による音声障害患者にも有用な方法。両腕の握りこぶしを胸前に構え、肘を支点にしてすばやく振りおろしながら発声させる。
硬起声発声
強く声帯を閉じ、声を起こす。
頭位変換法
頭位を変えることによって楽で正常な音声が得られることがある。
1直立位、2伸展位、3屈曲位、4側屈位、5回旋位。
母音発生をしながら頭位を取り、最も声の出る場所を探す。
Kayser-Gutzmann法
甲状軟骨縁に指を入れて甲状軟骨全体を下方に押す方法。低い地声を誘導する方法。
アクセント法
腹筋の収縮にリズムをつけて発生する方法。
吃音、難聴児、構音障害、音声障害、嚥下などの訓練に用いられる。
音声はポリープ様、ポリープ、結節、半壊神経麻痺、過内転など。
1.呼吸の訓練、2発声の訓練、3文句の訓練、4会話での訓練。患者はああ訓練者を模倣して行う。
リー・シルバーマン法
パーキンソン患者の為の発声指導として行われた。
声門閉鎖を強化し、安定させる訓練である。
1声の大きさの増加、
2声の高さの調節、
3声質改善、
4集中訓練、
5患者と治療者の意識的努力が特徴的。
[参考•引用文献]
編著:苅安 誠「言語聴覚療法シリーズ14 音声障害」
監:廣瀬 肇「言語聴覚士テキスト 第2版」
監:小寺 富子「言語聴覚療法臨床マニュアル 改訂第2版」
著:聖隷三方原病院「嚥下障害ポケットマニュアル 第2版」
訳:金子 芳洋「摂食‣嚥下メカニズムUPDATE 構造・機能からみる新たな臨床への展開」