高次脳機能-キーワード

意識障害

急性期には意識障害が見られることが多く、高次脳機能障害の背景要因となる。意識レベルの評価をする際にJCSとGCSがある。頻度が高い疾患には脳血管障害、頭部外傷がある。

 

JCS

JCSは、刺激に対して覚醒するかどうかを基準に、覚醒の程度を3群に分け、さらに各群を3段階に細分し、数字により意識障害程度を表現したものである。3-3-9度方式と言われており、数値が大きいほど意識障害が重度となる。

 

GCS

GCSは、意識障害を開眼eye opening(E)、言語反応verbal response(V)、運動反応motor response(M)の三次元で観察し、各群の反応様式をそれぞれ細分し、各群のスコアの総和で障害の程度を表現する。GCS得点が3~8点重度、9~13点中等度、14、15点軽度とされている。

 

意識混濁

意識の清明度が低下した状態を意識混濁という。その程度により重度な場合を昏睡、中等度を昏迷・昏眠、軽度な状態を傾眠という。

 

せん妄

軽度から中等度の意識混濁に錯覚、幻覚や精神運動性興奮を伴う意識状態を言う。一過性、浮動的に発症する。一般的に昼夜が逆転している患者が多く、症状がしばしば夜間に悪化する。幻視がよくみられる。

 

認知症

脳の病変もしくは脳に影響する全身疾患があって、記憶や言語などの複数の認知機能ドメインが、後天的に障害された状態で、それが慢性に持続し、その結果、社会生活の水準低下をきたした「状態」を言う。その原因は神経変性疾患や脳血管障害、頭部外傷、脳に影響を与える全身疾患など様々である。

 

見当識障害

見当識障害の基盤には記憶障害があるが、記憶障害があれば必ず見当識障害があるというわけではない。場所の認識の誤りや季節の誤りなどには状況判断能力も関与している。入院中にも関わらず酒やたばこを要求するといった問題の背景には、見当識障害が存在する可能性もある。

 

アルツハイマー型認知症

認知症を主体とし、病理学的に大脳の全般的な萎縮、組織学的に老人斑、神経原繊維変化の出現を特徴とする神経変性疾患である。認知症の中で最も多い。治療薬は、現在のところ、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬の2種類がある。

 

アルツハイマー型認知症の経過

初期(1~3年)は、海馬と側頭葉の萎縮がみられ、症状として新しいことが覚えられない記銘力障害、物の名前を思い出せないなどの記憶障害、年月日の感覚が不確かな時間の見当識障害、物とられ妄想、被害妄想、自発性の低下でだらしなくなるが、身辺の自立は可能である。中期(2~10年)は、頭頂葉の萎縮も加わり、新しいことだけでなく、古い記憶も障害される。また、自分の家を認識できなくなる場所の見当識障害、徘徊、着衣失行、流暢性失語などがみられ、日常生活に介助が必要となる。後期(8~12年)は、前頭葉・後頭葉の萎縮も加わり、記憶のほとんどを失い、意思の疎通が困難となる。肉親がだれだかわからなくなる人の見当識障害、尿便失禁、異食、歩行障害、神経症状が現れ、最終的には無動・無言をなり、寝たきりになる。

 

脳血管性認知症

脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)によって生じる認知症。全認知症の20~30%を占め、アルツハイマー型認知症の次に多い。脳卒中発作に伴い急激に発症したり、新しい梗塞が加わる度に段階的悪化を示したりする。認知症状(まだら認知症)の他、障害部位により局所神経症状(運動障害、感覚障害、偽性球麻痺{構音・嚥下障害など}、脳血管性パーキンソニズムによる小刻み歩行など)を伴う。抑うつ、自発性の低下、遂行機能障害、夜間せん妄、情動失禁、頻尿・尿失禁などがみられる。Cf.Binswanger病(進行性皮質下血管性脳症)

 

前頭側頭葉型認知症

特徴的な人格変化、行動異常(自発性の低下、感情鈍麻、脱抑制、常同行動など)がみられ、進行すると前頭葉・側頭葉に限局した萎縮性病変を認める症候群をいう。代表疾患にPick病がある。病識は欠如している。

レビー小体型認知症

Lewy小体とは、神経細胞に出現する円形の細胞質封入体で、関係疾患にParkinson病とLewy小体型認知症がある。老年期に発症し、進行性の認知機能障害とともに幻視などの特有の精神症状とパーキンソニズムを呈する神経変性疾患である。近年、疾患の認識の広がりに伴い、有病率の高さが明らかとなり、注目されている。

 

認知症の検査

わが国で使用されている代表的なスクリーニング検査には、MMSE(Mini-Mental State Examination)とHDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)がある。これらは診察室やベッドサイドで短時間に実施できるという点で、医療・福祉の領域で広く用いられている。いずれも最高得点30点であり、一般的にはHDS-R20/21点、MMSE23/24点が認知症の有無のカットオフポイントとされている。行動観察による評価に5段階で重症度を判定するCDR、アルツハイマー病患者の重症度をみるFASTなどもある。

 

治療可能な認知症

神経変性疾患は不可逆性に進行し、治療も困難であることが多い。しかし、その他の認知症の中には、早期に治療を行うことで劇的に認知機能が回復する場合がある。このような認知症を治療可能な認知症と呼ぶ。正常圧水頭症(NPH)、甲状腺機能低下症、神経梅毒、HIV脳症(AIDS脳症)、慢性硬膜下血腫など。

 

健忘症

健忘症とは陳述記憶(意味記憶・エピソード記憶)の障害である。前向性健忘症と逆行性健忘の2種類がある。前向性健忘(記銘障害)は新しいことを覚えられない。逆行性健忘(想起障害)は発症以前に覚えたことを思い出せず、比較的最近の記憶が障害される。

 

意味記憶障害

健忘症とは異なり、意味記憶が選択的に障害されるケースもある。意味記憶の障害は語義失語の形をとって現われることがある。語義失語では、単語の意味記憶が顕著に障害される。例えば「時計」という単語を聞いてもそれが何を表すのかがわからず、また、時計の実物を見てもその名前は喚起されない。しかし、時計を見て、それが時間を示すものであることはわかっている。一方で、単語の意味にとどまらず、「もの」自体の意味がわからなくなるという意味記憶障害もある。意味記憶の障害は、変性疾患により進行性に侵される意味痴呆のほか、ヘルペス脳炎、脳外傷、脳血管障害などで生じる。

 

一過性全健忘

一過性に健忘症候群を引き起こす、一過性全健忘は、前向健忘と逆向健忘が突然起こり、その後ほぼ24時間で回復する。前向健忘は非常に強いが、健忘以外の認知機能障害はほとんど認められない。原因については、脳循環代謝の検討から、発作中の両側側頭葉内側部の機能障害を指摘する説もあるが、いまだに解明されていない。

 

作話

事実にはない記憶の内容を患者が事実と思って口にすることである。本人に確信があるわけではなく。場当たり的な応答も多い。記憶障害に必ず伴うわけではなく、前頭葉や基底核などが両側性に損傷された患者に多くみられる。作話は当惑作話と空想作話に分けられる。

 

パペッツの回路

海馬⇒脳弓⇒乳頭体⇒視床前核⇒帯状回⇒海馬傍回⇒海馬

三宅式記銘力検査

言語性の記憶検査(聴覚的言語刺激を用いた対連合学習課題)

構成…各10組の対語(有関係対語、無関係対語)を用いる。2秒間隔で有関係対語を読み上げ、検者が最初の単語を言い、他方を被験者に答えてもらう。これを3回繰返す。

評価…10秒反応が無ければ忘却とする。標準値よりも明らかに低下している場合は精査を必要とする

ウエクスラー記憶検査法(WMS-R:Wechsler Memory Scale-Revised)

記憶の総合的な検査 対象:16~74歳

構成…13の下位検査からなる

評価…5つの指標を算出する(言語性記憶指数、視覚性記憶指数、総合記憶指数、注意集中指数、遅延再生指数)

特徴…9つの年齢レベルごとに標準得点が設定されている。失語、失認などがあれば困難な課題が多く、適応の有無を検討する

 

リバーミード行動記憶検査

構成…11項目ありスクリーニング点は12点満点

評価…粗点を記録し、標準プロフィール点に換算する(リハビリを実施して変化をみるとき)。スクリーニング点を算出する(正常範囲か大まかにみるとき)。

特徴…日常生活に近い場面を想定して評価する。年代別にカットオフ点がある。

 

Rey複雑図形検査

視覚性記憶、視覚認知、構成能力を評価する

構成…複雑な図形の模写と再生(遅延)課題

評価…18の部分について検討される。時間制限はない。

特徴…模写では視覚認知(半側空間無視、注意など)や構成能力を見ることもできる。再生では模写と比較することにより視覚性記憶が評価できる

ベントン視覚記銘検査

視覚性記憶、視覚認知、視覚構成能力を評価する

構成…幾何学図形が描かれた図版を用いて記銘再生(即時再生、遅延再生)あるいは模写をさせる

評価…誤りの種類(6種類)が検討され(誤謬数)集計される。

特徴…図は言語化できるものもあり、また模写が中心なので視覚性記憶よりも視覚構成能力がより反映されやすい。代わりの図版もあるので学習効果を防ぐことができる。

聴覚言語性学習検査(Auditory Verbal Learning Test:AVLT)

聴覚的な言語性の学習と記憶を評価

構成…関連の無い15個の単語リストを読んで聞かせ、直後再生させる。別の15単語のリストを読んで聞かせ再生させる干渉を実施する。最初のリストの単語をもう一度再生。最初の15語と干渉の15語に新たな20語を追加した50語の中から最初のリストの単語を選ぶ再認課題を行う。

特徴…言語性の記憶障害の検出が高く、再生課題と再認課題があるので記憶障害の性質の違い(記銘が問題なのか想起が問題なのか)も評価できる。健忘の程度の評価に有用である。

 

純粋失読

視覚障害、視覚失認、失語症、注意障害、知能障害によらない読みだけの障害。軽度の喚語困難、漢字の書字障害、右同名半盲、色名呼称不能が頻繁に合併する。逐次読み、運動覚促通効果が特徴。

【損傷部位】後頭葉内側面と脳梁、側脳室後角後部から角回間の白質

 

純粋失書

運動障害、失語症、失行、構成障害、注意障害、知能障害等によらない書字のみの障害。書字は漢字、仮名とも障害され想起困難や錯語が見られる

【損傷部位】左上頭頂小葉、左中前頭回後部

 

失読失書

ほとんど正常な発話や聴理解に対し中等度以上の読み書き障害。漢字の語性錯語が多く特徴的である。文字をなぞっても読めない、視覚経路以外で文字情報を得ても読めない。自発書字と書取が同様に障害される。

【損傷部位】左角回、左側頭葉下部

 

構成障害

細部を明確に知覚し対象の構成部分の関係を把握して正しく合成することを要する組合せ、または構成の活動障害

症状:左右半球どちらかの損傷、後方病変でも出現するが、損傷半球によって症状が異なる

(左半球損傷)…細部が欠落した単純な絵となり、

(右半球損傷)…空間的関係が崩壊した絵となる

検査法:積み木やマッチ棒による構成や模写

 

バリント(Balint)症候群

精神性注視麻痺、視覚性注意障害、視覚失調を3徴候とする

・精神性注視麻痺:視線別の対象に向けて適切に移動できない、正確に固定できない症状

・視覚性注意障害:視野の中心付近の1つの対象しか見えない症状

・視覚失調:視覚対象を注視した状態でもそれをつかむことが出来ない症状

【損傷部位】…両側頭頂-後頭領域損傷でおこる

 

同時失認

Wolpertが「複雑な絵の個々の部は知覚できても、絵全体として又は描かれている状態が理解できない状態」を同時失認と命名した。

Luriaは「複数の対象を提示されると、一度に1つの対象しか認知できない状態」に同時失認という語を用いた。
①精神性注視麻痺、②視覚失調、③視覚性注意障害の3徴候からなるBalint症候群の視覚性注意障害がLuriaの同時失認に該当する。

背側性同時失認:一度に複数の対象に注意を向けることができない。1つしか知覚できない。背側という名称は、病巣が両側の頭頂葉と後頭葉の上部であることに由来する。

腹側性同時失認:一度に複数の物を知覚することはできるが、認知することはできない。つまり一つひとつの知覚をまとめて把握することができない。病巣は側頭葉と後頭葉下部である。

 

病態失認

自分自身の病的な状態を認知できないこと。一般的には自己の左片麻痺を言語的に否認する症状をバビンスキー型の病態失認とよぶ。症状は自己の状態や病態に気がつかず、自分の運動機能の異常(運動麻痺)を認知しないほかに、視覚機能・聴覚機能・体性感覚の異常などに気づかないことも当てはまり、それぞれ皮質盲(Anton症状)・皮質聾・身体失認などの症状に対応している。特に盲・聾に対する病態失認をAnton症候群と呼んでいる。

 

狭義の病態失認:脳損傷により自分自身の片麻痺の症状を否定する症状。

広義の病態失認:麻痺に対する無関心な態度のこともこれに含め、病態無関心(anosodiaphoria)も含まれる。

 

病的無関心

病態無関心、疾病無関心、病態無関知などとも呼ばれる。麻痺の存在を認めはするが、その重大さに無関心な状態のことをいう。


病態失認は患者本人の麻痺に対する完全な認知の欠如であり「手足は普通に動きます」など通常の言語性にも病態を否定する。しかし、そこまでは至らず、言語性にも「手足は動きません」などと片麻痺の存在は認識するものの、そのことの重大性にあまり関心を払わない状態を病態無関知と呼ぶ。

 

身体部位失認

左半球頭頂葉付近の病巣で出現し、聴覚的に与えられた名称に応じて自己または検者の身体部位を支持できず、絵を選択できない症状をいう。

 

手指失認

左半球頭頂葉付近の病巣で出現し、自己および他者の指について、また左右両方の手指についてその個々を識別し、呼称し、選択し、区別しかつ提示することが不能又は低下する症状である。

 

左右見当識障害

左右失認ともいう。自分自身の身体について、あるいは対面している人の身体について、左右の判断が正しくできない状態を指している。

半側性身体失認

Frederiksにより“意識される半側身体失認”と“意識されない半側身体失認”の2つに分けられた。意識される半側身体失認は、患者本人が半身の喪失感を訴えるものである。意識されない半側身体失認は、第三者から見て患者が半身がないかのように振る舞う現象のことである。症状は永続的で、右半球損傷の場合に圧倒的に多い。責任病巣は右頭頂葉だとみられている。体性感覚障害、疾病否認、半側視空間失認と共に発症することが多い。

 

運動無視

病巣と対側の上下肢の運動や使用が減少する症状である。以下の症状が現れる。

・患側上肢の不使用:特に両手動作(拍手,ビンの蓋を開ける,ボタンの留外し等)で目立ち、患側を全くあるいはわずかしか使わない。

・患側上肢を振らない歩行

・患側下肢の無動による異常歩行

・患側上下肢の異常な置き方:上下肢の不自然な肢位を放置し、体位を変える時にも置き去るように引きずる。

・激励による改善:検者が積極的に患側上下肢を使うように激励すれば、正常又は正常に近い動作と筋力が確認できる。

 

アントン症候群

皮質盲患者は、時に客観的に何も見えていないにもかかわらず、盲を訴えることがなかったり、盲を否認したり、見えていないことに無関心だったりすることがある。この病態をアントン症候群と呼ぶ。患者はあたかも自分が見えているかのように振る舞い、家具にぶつかったり、目の見えない人がとるような用心もせずに外を歩こうとする。尋ねられると見えているものを作話したり、誤りを指摘されると「部屋の明かりが暗いから」「眼鏡が合わないから」等と言い訳する。

 

ゲルストマン症候群

①手指失認,②左右障害,③失算,④失書の4徴候からなる症候群である。

 

注意(方向性・全般性・選択的)

対象の認知、言語、記憶、思考をはじめとする高次脳機能を有効に働かせるために不可欠な神経機能である。注意は、方向性注意と全般性注意に大別される。
注意機能の基本として重要なことは、の刺激の中からある特定の刺激に選択的に注意を向け(選択性注意)、選択した刺激に対して一定時間注意を持続する(持続性注意)ことである。これらが損なわれると、首尾一貫した行動がとれず、注意が逸れがちになる。これらに加えて、さらに高度な目的志向的な行動を制御する注意機能として、注意の変換や分配がある。

全般性注意

①持続性注意:ある一定時間刺激に反応し続けるための注意の持続能力のこと。

②選択的注意:多くの刺激・情報の中から特定の刺激を選択する、注意を集中する能力のこと。

③転換的注意:異なった刺激や情報に対して注意を転換させる能力のこと。注意を柔軟に他に振り向ける機能の事

④分配的注意:複数の刺激・情報に注意を分配する能力又はそれが可能な注意の容量を指す。

 

方向性注意:この障害により生じるのが半側空間無視で、ある特定の空間(たいていは左側)にのみ注意が向かなくなること。

 

注意障害

周囲からの刺激に対し、必要なものに意識を向けたり、重要なものに意識を集中させたりすることが、上手くできなくなった状態のこと。(下記の様な症状が特徴的である)
・気が散りやすい
・長時間一つのことに集中できない
・ぼんやりしていて、何かするとミスばかりする
・一度に二つ以上のことをしようとすると混乱する
・周囲の状況を判断せずに、行動を起こそうとする
・言われていることに、興味を示さない
・片側にあるものだけを見落とす

 

前頭葉症候群

前頭葉の病変・損傷により現れる一連の精神神経症状のこと。症状は言語機能、反射を含めた運動機能、認知・行為機能、精神症状などの側面に分けられる。言語機能に直接的にかかわるものてしては、ブローカ失語,純粋市失書,口部顔面失行などである。強制把握反射とは手のひらに触れたものは何でもつかむ原始反射の一つで、前頭葉症候群にみられる原始反射の内最も出現頻度が高い。精神症状としては、多幸症,無関心,自発性の低下,移り気などが認められ、認知・行為機能では歩行失行,注意・記憶障害,思考の固着,複雑な問題解決力の低下などがある。重度の自発性低下では、摂食,排尿・排便など日常的な行為も自ら行おうとしなくなる。

 

半側空間無視

病巣と反対側の空間刺激に対する発見(気づき),定位,反応の障害。左半球損傷に起因する右半側空間無視と右半球損傷による左半側空間無視の両方が存在するが、右半側空間無視は発症後速やかに改善し、症状も軽いことが多い。これに対し左半側空間無視は慢性期まで持続し、右半側空間無視より重症である。

 

半側空間無視の検査(BIT)

急性期のベット上での簡易検査では目の前に指や物品を提示しその数を問う、右側から握手を求めた後、左側からも握手を求めるなどがある。検査室で行う机上検査では、末梢試験、線分二等分試験、模写試験、描画試験が一般的である。BIT行動性無視検査日本版では従来使用されてきた検査法に加え、写真、電話、メニュー、時計、硬貨や読み書きなど日常生活に近い場面設定をした行動検査から構成されている。

 

統覚型視覚失認

視力、明るさの弁別、色彩視の視覚機能は保たれているが、物品または物品の絵などの対象物を明瞭に知覚することが困難になる障害。絵の視覚刺激では呼称・模写・弁別・マッチングおよび口令による選択提示はいずれも不良である。しかし、触覚や聴覚、嗅覚の手掛かりがあれば、物品の呼称は可能である。統覚型視覚失認は脳血管障害によって出現することはまれで、一酸化炭素中毒の症例が多い。一般にびまん性で脳後部に病巣を持つ。

 

連合型視覚失認

連合型視覚失認では模写が可能で、モデルと同じ物品を複数のサンプルから選択することができる。しかし、その物品名を呼称すること、言葉や動作で説明することは困難である。物品同定の際、連合型では形に関する情報を手掛かりにし、形態を認知する。一般に具体物の認知が最も容易である。病巣は典型的には両側後頭~側頭葉損傷によって生じる。

 

地誌的失見当障害

地誌的失見当は熟知しているはずの建物や風景を見てどこだかわからない、あるいは目印となる建物や風景はわかるがどのように進んだら良いかわからないという症状である。①街並失認、②道順障害、③自己中心的地誌的失見当識障害、④前向性地誌的失見当障害の4つに分類される。病巣は順に①右半球側頭・後頭葉内下面、②脳梁膨大部(特にブロードマン30野)、③両側または右半球後部頭頂葉、④右半球海馬傍回とされている。

 

相貌失認

発症前には熟知していた顔を見て、誰であるかがわからない症状である。見ている対象が顔であることはわかるが、知っている相手かどうか判断ができない。しかし、声をかけられると即座に相手を認知することが可能である。従来報告されてきた病巣は両側紡錘状回~舌状回とされている。

 

聴覚失認

広義の聴覚失認はすべての聴覚刺激(環境音、言語音、音楽)の認知が障害された状態をいう。純音聴力は正常に近く、文字言語理解にも障害がみられないが、聴覚提示されたすべての音の認知が不良となる。狭義の聴覚失認は環境音失認を指す。言語音の認知は保たれているが、非言語性の有意味な聴覚刺激(環境音)の認知が障害された状態をいう。

 

皮質聾

純音、言語音、環境音を含む音刺激に反応しない状態を指す。皮質聾では純音聴力検査でも重度の聴力低下が認められる。初期から100dB以上に上昇、そして経年的に軽度から高度に上昇する。病巣は両側の聴皮質である。

 

聴覚失認

聴覚失認とは聴力は残存しているものの、言語音、非言語音(環境音、音楽)の音の現す意味がわからない障害である。病巣は大脳の片側あるいは両側の聴皮質とされている。

 

観念運動失行

観念運動失行は物品を使用しない単純な運動や単一物品を対象とする運動が口頭命令、模倣、物品使用のいずれでも困難な状態を指す。誤反応には無反応、拙劣、遅延、保続や他に目的の動作と異なる動作への置換や意味不明な動作(例:歯ブラシを持った手を無意味に振り回す)などがある。こうした誤りは日常生活の自然状況下では現れない(意図的動作との乖離がある)。リープマンによると責任病巣は左頭頂葉である。

 

観念失行

観念失行では個々の運動は可能であるが、複数の物品を用いた複数の動作(複雑な一連の系列的動作)を正しい順序で行い目的動作を達成することが困難になる。個々の動作自体に誤りはない。こうした誤りは日常生活の自然状況下でも現れる。リープマンによると責任病巣は左頭頂葉後方である。リープマンの古典的分類では単一物品の使用障害を観念運動失行としている。

 

肢節運動失行

肢節運動失行は主に手と指による動作(例:ボタンをはめる、ページをめくる)の遂行が不完全、粗雑、途切れ途切れの状態を指し、動作の種類や遂行条件を問わず障害が現れる。運動の取り違えはみられない。日常生活上でも症状が現れ、症状の程度は意図的動作と自動的操作のどちらでも差は見られない。病巣は左右どちらかの半球の中心領域(中心前回、中心後回)で対側上肢に症状が現れる。

 

着衣失行

着衣失行とは衣服の着脱の障害であって、衣服とその着脱行為に限定する。他の物品動作、あるいは対象が衣服であての着衣以外の行為は保たれている。病巣としては、一般に右半球頭頂葉が重視されている。

 

口部顔面失行

言語命令または模倣命令に応じて口部顔面の習熟運動が遂行できない。口部顔面失行の最大の特徴は例えば、「咳払いをして下さい」に対して「えへん」とか「ごほん」などという言語化である。これは代償行動と考えられる。病巣としては左半球の損傷で出現するというのが大方の見解である。

 

発語失行(アナルトリー)

左中心前回中~下部後壁側の損傷によって、アナルトリー(失構音、発語失行)が出現する。これは、一貫性のない構音の歪みと、音のつながり異常からなる発語の障害である。

 

リープマン

失行を最初に系統的・理論的に記載したのは、20世紀初頭のリープマンである。観念運動性失行の基本概念として「物品を使用しない単純な運動や1つの物品を対象とする運動が言語命令、模倣、物品使用のいずれも障害されるもの」であると定義し、単一の物品使用の障害は観念運動性失行に含めた。

 

標準高次動作性検査

失語症を中心として、大脳損傷後の行為障害を検出することを目的に開発されたテストバッテリーである。顔面・上肢・下肢の各動作を包含し、13の大項目、42の小項目から構成されている。

 

外傷性脳損傷

脳外傷(交通事故が多い)や低酸素脳症などの全般性脳損傷で出現する高次脳機能障害の場合には、脳損傷の影響が脳の広範囲に及ぶために、症状は複合的で多彩である。

 

外傷性脳損傷による高次脳機能障害の特徴

全般性の脳損傷では、身体機能の障害が軽微であっても、記憶障害、行動や感情の障害、注意障害のなどのために、日常生活や社会生活への適応困難を示すことが多い。

 

認知リハビリテ―ション

高次脳機能障害に対する比較的新しいリハビリテーションの方法・理論である。認知リハとは、患者が日常生活の中でより多くの役割が果たせるように、個人に入る情報を処理・活用する能力を改善し、向上させる治療的過程である。

 

 

 

【参考文献】

監: 藤田 郁代「標準言語聴覚障害学 高次脳機能障害学」

著:長谷川 賢一「言語聴覚療法シリーズ3 高次脳機能障害」

監: 廣 瀬肇「言語聴覚士テキスト 第2版」,2012年

「病気がみえる脳・神経vol.7」

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