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​聴覚系-キーワード

伝音系 

内耳まで音を効率的に伝達する外耳、中耳を伝音系という。

 

感音系 

内耳から聴覚中枢までを感音系といい、感音系は内耳、聴神経、脳幹(下丘、上オリーブ核)、聴放線、大脳皮質聴覚野(横側頭回)までを含む

 

内耳 

内耳は側頭骨の中の骨迷路と呼ばれる複雑な形の構造に収まっており、聴覚を司る蝸牛と3つの半規管(外側半規管、前半規管、後半規管)と2つの耳石器(卵形嚢と球形嚢)から成る平衡覚を司る前庭とがある。蝸牛と前庭器官とは相互に連結している。骨迷路内は内リンパで満たされており、それぞれの機能に応じた感覚受容器があり、感覚細胞を有する。

 

音の電気的信号 

進行波により基底板は上下動をおこし、コルチ器の有毛細胞と蓋膜の間にずれを生じ、聴毛を曲げることで電気信号を発生する。

耳介 

耳垂を除くと軟骨により形が保たれ、その中央部には外耳道の入り口である外耳孔が開いている。

 

外耳道 

外耳道は外耳孔から内方に向かう長さ約3~3.5㎝、直径約0.8㎝のS字状にやや湾曲した筒状の管で、その突き当りは鼓膜である。外耳道の外側部分は軟骨で、内側部分は骨で形作られている。

 

聴器の発生 

内耳の発生は胎生第3週に菱脳の両側の体表外胚葉が肥厚した耳板と呼ばれる原基に始まり、これが急速に陥入し、第4週になると体表から分離して耳胞を形成し、その10週までに蝸牛が形成される。生下時には聴覚受容器である蝸牛と聴覚伝導路はすでに形成されている。

 

Mecke軟骨 

第1鰓弓内の中胚葉性の細胞群からできる。この軟骨から、ツチ骨、キヌタ骨ができる。

 

Reichert軟骨 

第2鰓弓内のこの軟骨からアブミ骨ができる。

 

外耳道閉鎖効果 

外耳道を閉鎖すると1000㎐以下の周波数で骨導閾値がよくなる現象のこと(伝音障害がない場合、250㎐と500㎐で20㏈、1000㎐で5㏈)。この現象を利用した、耳栓骨導検査法もある。

蝸牛

かたつむりの殻のような形で、2回転半巻きしている。これを一直線に伸ばすと約33~34mmになる。この骨の構造を骨迷路という。蝸牛は蝸牛軸を中心に回転しており、基部を基底回転、上端を頂回転という。蝸牛軸から外側に向かって骨ラセン板が突出して基底板を形成し、その上に前庭膜(ライスネル膜)が張っている。蝸牛の断面は、前庭膜と基底板で3分画されており、上を前庭階、下を鼓膜階、その間を蝸牛管(中央階)という。前庭階は前庭窓(卵円窓)、鼓室階は蝸牛窓(正円窓)で中耳と境されている。

 

前庭階と鼓室階は、頂回転で交通しており、ともに外リンパ液(細胞外液、高Na⁺、低K⁺)で満たされている。蝸牛管は内リンパ液(細胞内液、高K⁺、低Na⁺)で満たされている。リンパ液が満たされている器官を膜迷路という。

 

血管条

蝸牛管側壁には血管条と呼ばれる血流に富む組織があり内リンパの産生、蝸牛内電位の保持の役割を担っている。いわば、コルチ器活動のための電池の役割を果たす。

 

内リンパ液

内リンパ液(高K⁺、低Na⁺)は血管条で産生され、蝸牛管を満たしている。卵形嚢管を経て、球形嚢、内リンパ嚢に連なっている。内リンパの吸収は後頭蓋窩の内リンパ嚢で行われる。

 

コルチ器

ラセン器。基底板の上にはラセン器があり、音の感覚細胞である1列の内有毛細胞(約3500個)と3列の外有毛細胞(約12000個)が規則的に並んでいる。有毛細胞の上端には聴毛があり、その上を蓋膜がおおっている。有毛細胞には、蝸牛神経線維がシナプス結合し、蝸牛軸にそってラセン神経節をつくった後に、蝸牛神経核に向かう。

 

基底板

蝸牛管と鼓室階との間には基底板で境されている。この基底板は蝸牛頂では幅が広く、蝸牛底(基底回転)では幅が狭くなっている。前庭窓より入った音の波動は外リンパ腔である前庭階、鼓室階の液体の振動となり、このとき基底板を上下に振動させる。特にこの振動は低周波では基底板の幅の広い蝸牛頂で大きく、高周波では幅の狭い基底回転で大きくなる。

外有毛細胞

各種の支持細胞とともに、コルチ器(ラセン器)を構成する主要な要素。内有毛細胞は聴覚細胞であり、音波の振動エネルギーを神経電位に変換する。外有毛細胞は内有毛細胞の感音作用を補助する細胞であり、運動機能(基底板を振動させる)を備えている。外有毛細胞の運動に伴う音が外界に放射されたものが耳音響放射である。

半規管

互いにほぼ垂直をなす三次元的な3つの半管よりなり、すなわち、錐体骨内で錐体稜にほぼ直角で上下に向かう前半規管と、錐体稜と後頭蓋窩面に平行で、前半規管と直角に交わる後半規管と、錐体骨中頭蓋窩面と平行で、前・後半規管と直角の面の外側半規管であり、それぞれ卵形嚢に通じている。

内耳の後方部にある半規管では、回転運動の変化を感知する。半規管には3本ループがあり、外側半規管は水平面に、前半規管と後半規管は垂直面にあり、互いに垂直になるように配置されている。

耳石器(前庭器)

内耳の中間にある前庭には、球形嚢と卵形嚢という2つの膜迷路の袋があり、頭部の傾きや直線運動の変化を感知する。その壁の一部に有毛細胞の集まった平衡斑があり、有毛細胞の感覚毛にはカルシウムからなる耳石が集まって耳石膜をつくっている。平衡斑が傾くと耳石膜が横方向にずれて有毛細胞を刺激する。球形嚢と卵形嚢の平衡斑は互いに垂直な向きに配置されていて、さまざまな方向の頭部の傾きや直線運動の変化が感知される。

膨大部稜

半規管の付け根の膨大部には、感覚細胞を備えた膨大部稜があり、有毛細胞の感覚毛をゼラチン状の物質が包んでクラプをつくっている。内リンパ液の流れはクラプを動かして有毛細胞を刺激する。このようにしてさまざまな向きの回転運動の変化が有毛細胞によって感知される。

聴覚伝導路

蝸牛の有毛細胞で変換された電気信号は、蝸牛軸に分布しているラセン神経節から内耳道を通って脳幹に入り、蝸牛神経背側核と腹側核に至る。脳幹内を上行するとき、一部は同側を、多くは反対側に交叉しながら蝸牛神経核から上オリーブ核に、さらに外側毛帯核を経て内側膝状体に終わる。内側膝状体からは聴放線をなして、側頭葉の背側面の横側頭回(Heschl回)にある第一次聴覚野に終わる。

下丘

中脳水道の後方に位置する中脳の表面は、中脳蓋と呼ばれる。ここには四丘体があり、2対の感覚神経核を含んでいる。下丘は延髄にある神経核から聴覚の情報を受け取る。この聴覚情報の一部は同側の内側膝状体へ送られる。下丘ではさらに感覚情報を分析・統合し、聴覚反射に重要であるとされる。

 

聴性誘発反応のうち、主として蝸牛神経から脳幹部聴覚路に由来する反応潜時10msec以内のものを聴性脳幹反応(ABR)という。下丘由来とされるⅤ波が弱い刺激強度でも出現するため、Ⅴ波ピークが認められる最も弱い刺激強度をもってABR閾値とする。

上オリーブ核

脳幹の聴覚伝導路は、蝸牛神経核、台形体核、上オリーブ核、外側毛様体核、下丘からなる。脳幹レベルの聴覚伝導路障害に伴う聴覚障害は、左右の聴覚情報が初めて統合される上オリーブ核への交叉線維の交叉前を下部脳幹性難聴、交叉後を上部脳幹性難聴と呼んでいる。上オリーブ核では両耳間の強度差、時間差の検出を行っている。これにより、音源の定位がなされる。

方向覚

両耳で音を聴くと、音波に近い方の耳には音は早く、大きく到達する。音の方向覚(左右方向)は、1~2kHz以下の低周波数では時間差(位相差)と、それ以上では振幅差(強度差)などが手がかりとなって認識されている。しかし、上下方向や単耳における方向覚などでは他の要因もあるといわれている。

難聴ハイリスク因子

①低出生体重児(1500g以下)

②新生児重症黄疸(ビリルビン20mg/dl)

③家族内難聴者

④血族結婚

⑤出生児仮死(アプガー指数:0~3)

⑥重症呼吸障害

⑦胎生期の感染症(風疹、サイトメガロウイルスなど)

⑧異常脳神経症状

⑨頭頸部奇形

➉耳毒性薬物(アミノグリコシド系抗生物質)

耳毒性薬剤

・アミノ配糖体薬物:ストレプトマイシン

・抗腫瘍剤(シスプラチン)

・ループ利尿剤(フロセミド)

非症候群性遺伝難聴

先天性難聴の約50%は遺伝性であり、遺伝性難聴の約30%は難聴以外の症状を伴う症候群性難聴、約70%は難聴以外の症状を伴わない非症候群性難聴である。症状が難聴のみである非症候群性難聴では、症候群性難聴と異なり随伴症状からは原因遺伝子を予測できない場合が多い。しかし、ごく一部の非症候群性難聴では、聴覚検査の特徴から原因遺伝子を比較的高い確率で同定できる。その代表的な例はAuditory Neuropathy(ABR検査で無反応、OAE検査で正常反応)の主たる原因であるOTOF遺伝子であり、日本人でも確認されている。

トリチャーコリンズ症候群

Treacher-Collins症候群は、常染色体優性遺伝と考えられている第一・二鰓弓、舌骨弓由来の組織に異常のみられる疾患で、垂れ目、下眼瞼の部分欠損、頬・下顎の低形成を3主徴とした特有の顔貌を呈する。副症状として、外耳奇形、外鼻変形(鈎鼻変形)、巨口症、口角と耳垂を結ぶ線上に陥凹や瘻孔の形成を見ることがある。

眼窩異常や顔面の奇形などを伴うとともに、耳奇形、耳介奇形、外耳道閉鎖、中耳の奇形などによる伝音難聴がみられる。時に内耳奇形に伴う感音難聴もみられる。

ワーデンブルグ症候群

Waardenburg症候群は、常染色体優性遺伝で眼・鼻の異常、眉毛の異常発育、虹彩の色素異常、前額部の白髪などとともに感音難聴も時に、認められる。

ペンドレッド症候群

Pendred症候群は、先天性難聴で比較的頻度の高い症候群性難聴である。

前庭水管拡大症

先天的に前庭水管が大きく、それに伴い内リンパ嚢も拡大している疾患である。常染色体劣性遺伝形式をとり、比較的よく見られる。この疾患では髄液の圧変動が内リンパ嚢を介して、前庭を含む内耳リンパに大きく伝達され、蝸牛に機械的障害を与える。数日で軽快することもあるが、最終的には変動を繰り返しながら、徐々に進行し、難聴となる。

アルポート症候群

Alport症候群は、常染色体優性遺伝で腎不全とともに、両側性の感音難聴であるが、7~10歳ごろから明らかになり、最初は軽度難聴であるが、進行して高度難聴に至る。

老人性難聴

加齢による神経系全般を含む生理的変化に伴って聴力が低下する両側性の感音難聴。50歳代以降に少しずつ現れ、年齢とともに悪化する。まず高音域の聴力が低下し、次第に中・低音域の難聴となる。原因は、内耳の有毛細胞、内耳の血管条、聴覚中枢路などの障害で、患者によって病態が異なる。

オーディトリ・ニューロパチ

蝸牛の外有毛細胞などの機能は正常であるが、ABRの反応が得られず、聴力閾値では中等度以上の感音難聴を示し、語音明瞭度も悪いという後迷路障害の疾患群のこと。補聴器の装用効果は限定的である。

一過性閾値上昇

一定の強さの音が、はじめは大きく感じ、それがしだいに小さく感じる現象。固定周波数の自記オージオメトリにおけるJerger分類ではⅢ型となる。

聴神経腫瘍

内耳道内の前庭神経に発し、徐々に進行する良性腫瘍である。一側性の後迷路性感音難聴や耳鳴を呈し、腫瘍の増悪とともに進行する。めまいを起こす事は少ない。初期には突然の耳鳴・難聴で発症することもあり、突発性難聴と誤る事がある。

心因性難聴

器質的疾患がないにも関わらず、心理的葛藤などにより種々の音刺激に反応しないことがある。思春期に多く、難聴は両側性で不安定であるが、他覚的聴力検査では正常である。自記オージオメトリではJerger分類Ⅴ型を呈する。カウンセリングで急速に改善することもあり、予後は良好とされている。

【参考文献】

著: 山田 弘幸「聴覚障害Ⅰ基礎編」

著: 鳥山 稔/田内 光「言語聴覚士のための基礎知識 耳鼻咽喉科第2版」

監: 廣瀬肇「言語聴覚士テキスト 第2版」,2012年

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