小児・疾患別
発達障害
自閉症、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害、学習障害(LD)、注意欠如多動性障害(ADHD)、その他これに類する脳機能の障害を指す
広汎性発達障害に含まれる疾患
自閉症(高機能自閉症)、レット症候群、小児期崩壊性障害、アスペルガー症候群、非定型自閉症 ※疾患の下位分類はICD-10とDSMⅣ-TRにより異なる。
診断基準→「対人的相互反応の異常」「コミュニケーションの質的障害」「行動、興味、活動の限局された反復的で情動的な様式」
自閉症スペクトラム
発達早期より社会性、コミュニケーション、イマジネーション(想像力、思考の柔軟性)の3つの面において、何らかの質的障害を有する状態を指す概念であり、臨床的に多く用いられている診断名である。スペクトラムとは「連続体」という意味。ウィングはカナーとアスペルガーの記述した郡の子どもたちを表面上は異なって見えるが、三つ組の障害という共通性を持つ境目のない連続する状態として捉えた。
自閉症
現在の自閉症スペクトラムの以前の名称。教科書では「やむを得ず自閉症という用語を用いる場合は、カナーが記述したタイプあるいは国際的診断基準における自閉性障害あるいは小児自閉症に近い状態像を指す場合に用いる。」としている。
①「心の理論」障害仮説:人の嘘や冗談がわからない、字義通りに理解するなど、他者の願望や意図などの心的状態を直感的に理解することが難しいとする。
②弱い「中枢性統合」仮説:詳細な描画能力や絶対音感など情報の統合を必要としない領域に優れている点、要点を得ない細部にこだわった説明など、情報を統合することが弱く、断片的に捉える傾向にあるとする。
③「遂行機能」障害仮説:歩行中に興味を引く出来事に会うと移動目的を忘れそれに没頭する、急いでいるのに一定のきちんとした順序で料理を作るなど歩行や食事など日常の決まった行動には対応できるが、予定の変更や同時に2つのことをこなすなど高度の意思決定を必要とする活動において困難を示すとする。
自閉症児の言語特徴
①共同注視行動の欠如、②非言語的コミュニケーション(ジェスチャー、視線、表情など)の異常、③意味理解・語用的側面の発達の遅れ、④語彙・構文の異常(新造語の使用、代名詞や授受構文の逆転、自己流の隠喩的表現など)、⑤話し言葉の異常(エコラリア、機械的で単調なプロソディー)などが挙げられる。
高機能自閉症
明らかな知的障害が無いが(IQ70以上)、実際の社会適応に問題を有する自閉症
レット症候群
主に女児に生じる特異な進行性の中枢性疾患。遺伝子変異により、生まれてからの発達は正常であったが、乳児期中期から幼児期前半に著しく発達が遅延する。手もみの常同行動、頭囲増大の減速、歩行障害、周囲に無関心になり、社会的関わりが障害される。広汎性発達障害の1つ、重篤な言語発達障害(進行性)
小児崩壊性障害
生後少なくとも2年間は明らかに正常な発達を示すが、突如すでに獲得していた技能(言語、対人関係、排泄、遊び、運動能力)の著しい喪失が起こる障害
アスペルガー症候群の診断基準
自閉症と同様な症状を示すが、2歳までに単語を用い、3歳までにはコミュニケーション的な句を用いるなど臨床的に見て著しい言語の遅れがない、また認知の発達、年齢に相応した自己管理能力、対人関係以外の適応行動、および小児期における環境への好奇心について臨床的に明らかな遅れがないとされている。
アスペルガー症候群の特徴的な症状
発達早期より社会性、コミュニケーション、イマジネーション(想像力、思考の柔軟性)の3つの面においてなんらかの質的障害を有する。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)
診断基準:不注意および/または衝動性・多動性が6ヵ月以上持続し、7歳以前から、家庭と学校など2つ以上の状況でみられ、発達水準に見合う社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。
基本症状:気が散りやすい、不注意、多動、落ち着きがない、衝動的
分類:・不注意優勢型・多動性/衝動性優位型・混合型
※混合型>不注意型>多動性/衝動性型
ADHDに併存する障害
・発達障害:学習障害、発達性協調運動障害、特異的言語発達障害など。広汎性発達障害の診断の併記はしない。
・神経性習癖:排泄障害、チック障害、睡眠障害など。
・行動障害:反抗挑戦性障害、行為障害など。
・情緒障害:気分障害、不安障害、適応障害など。
ADHDの二次障害
・自己評価が下がる・自尊心の低下・学業不振・不登校・いじめる・いじめられる・うつ病・反抗挑戦性障害・行為障害
・不安障害
特異的言語発達障害
知的障害、自閉症、聴覚障害など言語発達を阻害する問題が明らかに認められないのに、ことばの発達が遅れ、言語の表出や理解に困難がある場合を示す。知的発達に著しい遅れはない。音韻メモリー(音韻的短期記憶)の弱さ。
SLI児の言語特徴
①2~3歳代
・言語発達の遅れに気づかれる・理解語彙の少なさ 名詞…多い 動詞・大小・色…理解がきびしい
②4~5歳代
・特徴を聞かれるとわからない・5Wの質問に答えられない・表出時の助詞の脱落・動詞の表出の少なさ・語想起困難
・構音の不明瞭…単音は可能 単語・文になると子音の脱落、一貫性のない構音の誤り
③6歳から就学
・助詞の誤り・話がとんで何を言おうとしているのか利き手が理解困難・話がまとまらない
④学齢期以降
・会話がうまくできない・瞬時に反応できないため、先生の言語指示に従えない
・学習・コミュニケーション面に問題
※DSM-Ⅳ-TR→「コミュニケーション障害」ICD-10→「会話及び言語の特異的発達障害」
脳性麻痺
受胎から新生児期(生後1ヵ月以内)までの間に生じた脳の非進行性の病変に基づく、永続的なしかし変化しうる運動および姿勢の異常。その症状は2歳までに発現する。進行性疾患や一過性の運動障害、または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅滞は除外する。脳性麻痺の多くは痙性型と言われている
脳性麻痺の原因
出生前の原因、周産期の原因、出生後の原因に分けられる。
①低出生体重児にみられる脳性麻痺
低出生体重児:2500g未満
極低出生体重児:1500g未満
超低出生体重児:1000g未満
※低出生体重による脳性麻痺の原因は脳室周囲白質軟化症が多い。
②仮死による脳性麻痺
胎児仮死・新生児仮死:種々の原因により胎児・新生児の呼吸・循環機能に障害が起きた状態。
脳性麻痺の発生頻度→1000人に2人
低酸素性虚血性脳症
仮死により低酸素状態が続く状態
脳損傷が進み、痙攣が生じる。運動障害だけでなく、知的障害、てんかんを合併した重度の脳性麻痺になることが多い。
白質軟化症(PVL)
早産低体重出生が原因
◎症状
・下肢>体幹>上肢で障害が残る・視知覚を中心とした認知障害が起こる。脳室周囲の白質で損傷を受けやすい部位は後方部分。
脳性麻痺の分類・運動障害の型
①痙直型
・下肢の突っ張り・足の開きが悪い・下肢の交互運動が少ない・肘屈曲が反対・手を握り続ける・関節の拘縮
②アテトーゼ型
・アテトーゼ=定まらない→四肢をくねらせる動き・不随意運動としての異常は随意性が高い部分で目立つ・口腔諸器官の不随意な動き・随意的な呼吸調整の困難・安定した立位・座位が困難・急な緊張の高まり(スパズム)・知的には良好
③失調型
・姿勢保持や動きのための筋活動の調整に障害を生じた状態・立位・一定の姿勢を保持するバランスがうまくとれない
・振戦・距離測定障害・静止しているだけでは異常はみられない
④低緊張型
・座位の際、べったりと体を折りたたむ・重力に反する動きが乏しい
⑤痙直型+アテトーゼ型=混合型
・麻痺の性状が混合する
・損傷を受けた脳で成長・発達をする
①四肢麻痺:四肢体幹全体の麻痺
②両麻痺:両側下肢の機能障害が目立ち、体感・上肢にも問題を有する。下肢障害の方が重ければ両麻痺となる。
③対麻痺:両下肢に麻痺による機能障害があり、上肢・体幹は正常な場合。一般的には脊髄損傷でみられる。脳性麻痺ではまれ。
④片麻痺:左右どちらかの半身障害。機能障害としては上肢の方が重度。
⑤重複片麻痺:四肢の障害があるが、両上肢の障害が重度。両麻痺とは逆。ただし、両上肢の障害に左右差あり・四肢麻痺で左右差あり含む。
⑥三肢麻痺:四肢のうち三肢に障害を有する。
⑦単麻痺:四肢のうちひとつのみに障害を有する。
脳性麻痺児の言語症状
・初語の遅れ
・語彙・統語発達の遅れや偏り
・一方的な発話
・話題が唐突にそれる
・概念発達、音韻意識の遅れと偏り
・発声、構音、共鳴、プロソディ、流暢性の問題
・発話の明瞭性の問題
染色体異常
ヒトの体細胞の染色体数は46であり22対の常染色体と2個の性染色体により構成されている。この染色体の数的あるいは構造的異常を有する染色体異常は、頭頸部奇形を合併することが多い。知的障害の原因となる染色体異常に18トリソミー、21トリソミー、ターナー症候群、クラインフェルター症候群、猫なき症候群などがある。
ダウン症
発生頻度が約1/800出生の、最も広く知られた染色体異常症(21トリソミー)である。知的障害、消化管奇形、先天性疾患などさまざまな合併症を呈する。新生児期ダウン症候群の特徴所見として、モロー反射の低下85%、筋緊張低下80%、平坦な顔貌90%、などがある。ダウン症児の言語特徴、筋緊張低下による構音障害。理解、認知面に比べ表出面での遅れが顕著である。語彙、意味に比べ統語の発達が遅れる。子音の歪みや置換、省略の他、母音でも歪みや置換が見られる
トゥレット症候群
多様な運動チックと1つ以上の音声チックが慢性的に続くチック障害。汚言を伴ったり反響言語が見られることもある。しばしば合併する障害にADHDと強迫性障害があり自閉症との関連も指摘されている
重症心身障害児
身体的、精神的障害が重複しかつそれぞれの障害が重度である児童。大島分類では区分1~4に相当
合併症「脊柱側弯症、呼吸障害、摂食嚥下障害、胃食道逆流症、腸閉塞、骨粗鬆症など」※てんかんも通常に比べ高頻度にみられる
知的障害
一般的知能の明らかな低下(IQ70%以下)に適応行動の障害を伴う状態でそれが発達期に現れるもの。音韻操作が障害される事が多い
学習障害
中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されており視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や環境的な要因が直接的な原因となるものではない。学齢期に顕在化する
学習障害の中核と言われる読み書き障害では音韻操作が障害される事が多い。学習障害の訓練では通常の方法で粘り強く学習しても効果が低いとされている。指導の原則としては比較的良好に保たれている機能を活用していく。
DSM-Ⅳ-TR→「読字障害、算数障害、書字表出障害、特定不能の学習障害」
知的障害の原因に関係する疾患
ヌーナン症候群、脆弱X症候群、猫なき症候群、レノックスガスター症候群、ソトス症候群、プラダー・ウィリー症候群、歌舞伎症候群など
発達性読み書き障害(ディスレキシア)
音韻処理過程や視覚情報処理過程などの障害により文字や単語の音読、書字に関する正確性や流暢性が損なわれる。他の言語機能が正常に発達しているのが特徴。
障害仮説→「二重障害仮説、音韻認識障害仮説、視覚的注意スパン障害仮説」
熱性痙攣
高熱によって引き起こされる痙攣であり、かつ中枢神経系の感染が原因でないもの。発症の原因疾患として挙げられるのは「上気道感染、突発性発疹、麻疹、尿路感染症」6ヶ月~4歳児に多く見られる。6歳頃までには自然軽快する。単純型はしばしば家族性に認められる。複合型はてんかんに移行するリスクが高い。再発率は25~50%、発作は数分以内
ランドクレフナー症候群
3~8歳頃には発症し、聴覚失認、後天性失語、てんかんなどが特徴。脳波異常、知的障害を伴わない事が多い
小児欠神発作
6~7歳頃の学童期に発症するが知的障害は伴わず多くは予後良好
ウエスト症候群(点頭てんかん)
乳幼児期の難治性てんかんの代表的なものである。屈曲型の強直性痙攣発作を起こし知的障害を伴う。発症のピークは5ヶ月前後、1歳頃までには90%が初発する。
薬物治療→副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が有効
憤怒痙攣
小児に見られる発作で、叱られる、転ぶ、持っているものを取られるといった事が誘因となる。発作により脳障害を残すことはなく、脳波も正常であり治療の必要はない
レノックスガスター症候群
強直発作、スパズム、非定型欠神発作、ミオクロニー発作、難治性てんかん。7歳までに発症する